(日本語 編集協力: 石﨑史子)
あきさんは背が高い。そのため、彼ならではの視点があるのではと思ったが、実際はそれ以上だった。
初めてアトリエひこを訪れた時、入口近くにあきさんの青い絵があり、目を引いた。縦と横とも1メートルぐらいの大きさのキャンバスに青い顔が描かれた。顔はいくつかの円で構成され、その丸い目には瞳孔がない。
一見すると少し怖いかもしれないけど、細部ををもっと詳しく見たくなる。顔のすぐ下には、正方形ような白いスペースの中で何も描いていなく、キャンパスが空のまま残っている。一方で、白いスペースの外に、青い色がいっぱい入っている。
人の顔があれば、人の手、体や足があるはずじゃないだろうか。で、どこに描かれたのか。私は具体的な答えを探せば探すほど、ますます混乱していた。通常の考え方は全然適用できないように感じられた。
この絵をじっと見つめていて困っている私は、あきさんがキャンバスにしっかりと青色を塗っている姿を見た。「さささ…」っと、躊躇せずにさっと絵筆を動かした。描き出した青色が元の青色を覆って、すぐに新旧青色が重なり合ってしまう。
描くというより、筆が何も閉じ込められることなく、自由にキャンバスを舞台に踊ると言える。私はそんな描き方に夢中になっているところに、あきさんが席を離れていた。
オーケストラを指揮しているかのように、あきさんが人差し指を空中に上げているのが見えた。続いて、ピアノによる音楽が聞こえた。部屋の奥に、石﨑さんは一台白い電子ピアノの前に座り、心地よい音楽を演奏しながら歌っていた。「あきちゃん」を含む言葉も歌詞に入ってきた。
あれ?二人は阿吽の呼吸で音楽を作っているんだろうか。
不思議だと考えていると、あきさんが音楽に合わせて踊ったり、社交ダンスのような回転をしたり、部屋の奥に移動していった。音楽が続くにつれて、彼はハミングしながら、もう一本の葦ペンを手に取って墨で机上の紙に絵を描き始めた。
キャンバスに描いた人の顔とは大きく異なり、紙に描かれた物体はより認識しやすくなった。石﨑さんの弾いているピアノだったり、デザートとコップだったり、その形は私たちの目にする物に近い。でも、明らかに違いがある。
あきさんの描いた絵では、物の輪郭線は物と空間の境界線というより、一筆書きのように物から物へ繋がりがありそうだ。さらに、輪郭線は物から脱出するような自由になりそうだ。
さすが彼が体を動かしながら、物を観察した印象はそれなのだろうかと思わずにはいられない。私の物をじっと見つめる見方とは全然違う。細かいことにとらわれがちな私と異なり、あきさんの描き方も動き方も、もっと自由に見る方法を持っていそうだ。その自由がとても羨ましい!